武道の振興・普及

岩手県(盛岡市)地域社会柔道指導者研修会

期間 平成24年10月6日(土)~7日(日)
場所 岩手県営武道館
参加者 100名(大半が二段以上の有段者。未経験者2名 教員の参加者29名)
派遣講師 浅野哲男七段(全日本柔道連盟教育普及委員会副委員長)
山崎俊輔七段(全日本学生柔道連盟理事)

概要

 研修会は、参加者ほぼ全員が有段者であったため、外部指導者向けの指導が展開された。
 開会式後、浅野講師から配付資料に基づく柔道事故に関する講義があり、過去に発生した柔道事故の件数、内訳、教師用の訴訟保険の紹介、柔道指導者資格制度の導入などの全日本柔道連盟の取り組み、セカンドインパクトと呼ばれる事故への注意喚起等細かい点まで説明は及び、指導者として安全配慮を怠らないよう呼び掛けた。
 講義後、後ろ受け身、横受け身、前回り受け身の練習法の指導を行った。うつ伏せの相手の上に腰かけ、そこから体勢を後ろに傾けての後ろ受け身、四つん這いになった相手の腕を引いて横受け身を取らせるなど、発展的内容の受け身練習を指導した。
 その後、立ち技の指導に移行し、受けが中腰、膝立ちの状態での膝車、体落し、大外刈りを行った。投げる際は、取りは技をかけきるのではなく、技の形だけ作り、受けが自分から転んで受け身を取るようにすること、投げたあとも引き手をしっかり引き、頭を打たないようにすることなど、安全に受け身を取れるよう丁寧な指導が展開された。
 初日の最後には10名程度でグループを作り、その中の一名が指導者役としてグループ内で模擬授業を行い、残りの参加者が生徒役になり改善点、注意点を指摘した。
 二日目は最初、山崎講師が日本の柔道を見つめ直すことをテーマとして講義を行い、柔道の国際化、主に柔道が盛んであるフランスの取り組みを紹介。フランスでは柔道の指導者資格の導入など安全面に力を入れており、事故発生件数が非常に低い。そんな日本より進んでいる取り組みや東日本大震災の際の復興支援活動など、嘉納治五郎の唱えた精力善用、自他共栄の精神を実践している現状を紹介したあと、山崎講師は指導者として、結果にだけとらわれるのではなく、本人の変化、進歩を評価してやることの重要性、技術指導と同時に危険なかけ方、怪我する状況を示し事故を予防することの必要性を説いた。最後に、原点である精力善用、自他共栄の精神に立ち戻ることがこれからの日本の柔道にとって肝要であると話し、講義を締めくくった。
 その後、実技に移り、準備運動、受け身を行い、大外刈り、大腰、大内刈り、小内刈りの練習を行った。特に大外刈りには入念な指導が行われ、練習の際は、相手の足を刈るのではなく、刈る足の形だけ作り、体落とし気味にかけるよう指導があった。
 続いて寝技の練習を行い、背中合わせになった状態から相手を押さえこみ、10秒で一本とするルールで行う練習法を指導したほか、部活動での指導向けに「世界一周」という、寝技から逃れようとする相手に応じて様々な抑え込みを行う練習法が紹介、実践された。
 研修会の締めくくりとして、参加者のグループの一つが代表で模擬授業の発表を行った。教師役になった参加者は最初戸惑いながらも、徐々に調子がでてきたのか、途中からは随所で笑顔を交えながら指導を行い、模擬授業が終了すると、見守った参加者から温かい拍手が送られた。
 指導の中でもたびたび注意がなされたが、研修会の最後にも浅野講師は外部指導者として授業に参加した際の注意点として、外部指導者は技術指導の手伝いを行うだけであり、実際の授業は担当教員の仕事であること、また、教員の中には自分が全く指導を行わないだけでなく、評価も任す人がいるが評価は担当教員に任せ、自分は立場を弁え分を超えないことを挙げ、2日間の研修会を締めくくった。
 本研修会に参加した女性教員(未経験)は「学校の柔道部顧問となったのを機に、技術指導ができるようになりたいと思い参加しました。非常に分かりやすい内容で、一つひとつの動きにしっかり理由があることが分かりました」と感想を述べ、「事故の予防策だけでなく、実際に事故が発生した際の対応も教えてもらいたいです」と要望も上った。
 男性教員(有段者)は「世間で柔道の事故や怪我が問題になっていることを受け、安全に留意した新しい指導法を知りたかったので参加しました。勉強になることが多く、柔道を一から始める人には良い内容でした」と感想を語ってくれた。