武道の振興・普及

宮崎県(宮崎市)地域社会柔道指導者研修会

期間 平成26年9月27日(土)・28日(日)
場所 宮崎県武道館
参加者 39名(参加者全員が有段者。中学校教員8名、高校教員1名)
派遣講師 鮫島元成八段(全日本柔道連盟教育普及委員会委員)
小志田憲一七段(全日本柔道連盟教育普及委員会副委員

概要

 研修会開会式には日本武道館中山成彬常任理事が出席し、「子どもたちには武道必修化で心身を鍛え、礼の精神を身につけて欲しい。強くなることもいいですが、人としてしっかりした子供が育つことが大切です。指導者の皆様はどうかそのことを念頭に後進の指導にあたって下さい」と主催者を代表して挨拶し、講師を代表して挨拶した鮫島講師は「研修会と名前がついていますが、皆さんと一緒に柔道の指導法を研究、勉強したいと思っています。教える側と教わる側、指導者と生徒がいますが、生徒がいて初めて指導者のいる意味があるのです」と指導者としての心構えに触れ、研修会の意気込みを語った。
 開会式後、まず鮫島講師より中学校授業での安全指導についての講話があり、受身は10時間程度の授業時間では完全に身に付ける事はできない。受身を完璧に出来るようにするのでなく、転んだ時、倒れた時に怪我をしない転び方を教えれば良い。無理に指導計画に合わせて授業を行う必要はなく、乱取りの試合が危険だと思えば、柔道着の着方、受身、投げ方の試合をするなど工夫することが大切。一つの指導法にとらわれない柔軟な考えを持つことが中学校武道必修化の指導法に必要であると説明し、指導者の学校授業に合わせた創意工夫を求めた。
 その後実技指導に移り、帯の結び方、礼法、正座、座礼、受身を順に学習した。
 受身の指導では、いきなり完成形の受身を練習するのではなく、片膝を付いた状態から始めるなど段階的に練習するよう指導した。ほかにも練習の中で鮫島講師は潔さ(受けは無理に技を耐えないで潔く受身を取る)、命綱(技をかけた時、取りは引き手を、受けはえりを離さない)、残心(しっかり投げた後の体勢を保つ)の3つの要素を上げ、これらをしっかり守り、怪我につながる事故防止を徹底するよう指導を行った。

 午後には、「崩し」を体感するために二人一組になり腕力だけを使った「崩し」、相手の力を利用しての「崩し」を練習。力だけで相手を崩すのがいかに難しいことかを全員で学習した。
 続いて小志田講師が担当となり、寝技の練習に移った。まず基本となる「えび」、「逆エビ」を全員で行い、寝技の練習法として「世界一周」という、寝技から逃れようとする相手に応じて様々な抑え込みを行う(袈裟固め→後袈裟固め→横四方固めA→横四方固めB→縦四方固め→肩固め→袈裟固めの順)練習法が紹介された。最初は簡単な抑えこみの状態から始まり、手を加えたり、足を加えて相手が逃れられない完成形になるよう意味、理合を説明して指導を進めると良い、などのアドバイスがされた。初日の最後には膝車、体落としの練習を行い、ここでも先に挙げた3つのキーワード(潔さ、命綱、残心)を守ることの重要性が繰り返し強調され、事故防止に対する意識向上を呼びかけた。また、授業において二人一組で全体練習を行う際の注意点として、お互いの帯、服装等に乱れがあったら適宜指摘して直すこと、相手と組むとき、相手を変えるときにはしっかり礼をして「お願いします」、「ありがとうございました」を言うことを徹底し、技術面以外での「礼」の指導も怠らないことが挙げられた。

 二日目は最初に「技と徳:嘉納治五郎が目指した世界について」をテーマとした資料が配布され、それに基づいて鮫島講師より講義が行われた。技術の習得、錬磨が徳を高める事にはならず、柔道が強い選手に必ずしも徳が備わっているのではないこと、柔道は人間教育であり、技に人格教育が伴ってはじめて柔道が完成すること、嘉納治五郎が目指していたのは柔道を通じて、「技」と「徳」を兼ね備えた人間を育てることであり、そうした柔道教育を行うことの重要性を説いた。
 実技指導では昨日に引き続き投技の指導を行い、大外刈の指導では足と足を絡めたままシーソーのように交互に体を傾かせてバランスを取る練習法が披露され、他の技についても細かい指導が行われ、二日間の研修会は終了した。

 本研修会に参加した男性教員は「柔道の経験があるので、安全面での指導法が非常に分かりやすく、役に立ちました。今回は参加者が皆経験者でしたが、柔道の経験がない学校の先生にもっと参加して欲しいです」と今後の要望も含めて感想を語ってくれた。

「学校体育では柔軟な授業を」と鮫島講師

目線、手の位置、腰の角度に気を付けて立礼を行う

全員で受身の練習

腕力だけで相手を崩すのは困難

世界一周

引き手を離さず相手の頭部を保護する

体落としの形を単独練習

 「シーソー」と呼ばれる大外刈りの練習